いい加減大人になれ!

 もういくつ寝ると~と歌っていたら……え、マジ? もうバレンタインデー過ぎてるじゃん。寝てる場合じゃないよ、起きろ、目を覚ませ! もう22歳だぞ!

 俗世間から離れていると、こういう季節のイベントみたいなものからどんどん遠ざかっていくのを実感する。そう、ワシャ高校時代の頃には……いや、よそう。俗世間にいた頃からバレンタインデーと俺の接点はなかったから。多くのモテない男たちと同じように、俺も母親からもらっていただけだったから。

 低学歴だとこういう時に思い出す時代が高校の時だから困る。ワシャ大学に行ったことがないんじゃ! お、おじいちゃん、学歴コンプレックスは乗り越えたはずなのに……どうして!? 安心せい! 俺が高校に通っていた時にも甘酸っぱい青春が……ない。どんなに記憶を美化しても、そういう思い出が一切ない。華やかな学園生活を送った記憶がない。

 そうか……高校に通っていた時ももう四年も前の話だもんな。ないはずの思い出を手繰り寄せてもう逃さないように抱きしめていると、タイムラインで同級生が就職の話をしていたのでスマホ叩き割った。こうしてありえたかもしれない未来を一つずつ潰していく。

 いや、今度こそ安心してください。最近の俺は一味違う。上に書いてあるようなウジウジ期を乗り越え、今の俺は極めて規則正しい生活サイクルを確立し、夜の十二時には寝て朝の七時には起きる生活を続けている。

 朝七時に起きて朝食を食べ、向精神薬を飲むと、布団に潜り込んで(朝は寒いもんね)スマホで動画やアニメを見たあと、呆然と天井を眺めている。たまにやりもしないのにアルバイト探したりしてる。「やってる感」出さないと親からの視線も厳しくなりつつあるのでね。

 ……駄目じゃん。

 規則正しい生活になった結果、規則正しいダメ人間になってるだけじゃん。しかもこうして規則正しい生活を送っていると毎日のルーティーンの中で創造的なことを何一つしていないからひたすら将来への不安が積み重なっていくだけじゃん。むしろ加速度的に坂道を転がり落ちているだけじゃん。

 この前ちらっと本棚覗いたら一切勉強してない基本情報技術者試験の参考書が目について胸が苦しくなったけどこれって恋かな? 調べたら春の試験の申込期限切れてた。俺は声に出さず泣いた。

 中学の友人がやっているというアルバイトが楽そうだったから手配してくれるよう頼んだけど間に合わなかったみたい。普段通っているスーパーマーケットの前のドラッグストアはそれなりに狭いから俺にももう一回やれそうだけど、なかなか働く勇気が起きない。アルバイトを眺めていても、昔みたいに「やるぞ!」という気持ちが起きずに、日々を無為に過ごしながらたまにゲームセンターに通っている。

 ――未来が

 夕日が窓の外の白い壁のビルに差して鮮やかなオレンジ色をしている。最近日が伸びた。朝からうるさくしていたマンションの前の道路工事が一段落ついたようだった。静かになった路地裏で、自動販売機にコインを入れる音と缶コーヒーが取り出し口に落ちていく音が規則的に鳴っている。そして、一日が静かに終わっていくのを部屋の中で確かめながら、長い夜を待っている。