神の手の中にあるのなら

 台風19号の被害は東京以外のところが深刻で、俺が住んでいる東東京は避難勧告バシバシ出ていたみたいだけど、それに見合う被害があったかというと微妙だった。というか埼玉を流れる荒川が氾濫しそう、というだけで深夜にエリアメールを飛ばすんじゃないよ。

 しかし台風が過ぎ去って青い空に照らされた道を朝マックを買う途中に眺めると、やはり風になぎ倒された自転車の群れとか蓋が吹き飛ばされて中身をぶちまけているゴミ箱とか形が完全に歪んだ傘とかがそこら中にあって、やはり東京も台風に襲われた一つの地域ではあるのだ、と確認し直す。

 世界の終わりはあそこまで派手にスペクタクっているものなのか? 感覚的にどうやらそういうわけではないらしいことを知っている俺は、世界が終わりそうな台風報道に熱中しながら、やっぱりどこか冷めているようだった。世界はもっとゆっくりと、真綿よりも多少は硬いもので首を絞めるような感じで終わっていく。これは俺の中にある一つの願望だろうか?

 新海誠の最新作「天気の子」について俺は否定的な立場ではあるのだが、しかし劇中でヌルっと立ち現れた世界の終わりの感覚については結構俺と似ているのかもしれない。3年間雨が振り続けた結果沈んだ東東京。俺が住んでいるマンションもあの映画の中では水の底にある。

 「天気の子」は台風19号の予言とかそういう与太話の肩を持つ訳ではないが、しかし、あり得たかもしれない一つの未来についてなんとなく考えてしまった。

 まだ童貞なのに腰が痛くてここ二日間ほとんど動けていない。今こうして椅子に座りながらブログを書いているが、椅子に座るだけでピリッと腰が痛くなるので本当に困ったものだ。

 腰痛が出始めたのは中学生か高校一年生くらいの頃だった気がするが、それでも別に今みたいな痛みではなかったような気がする。2年前の夏にドラッグストアのバイトを始めてから腰痛は本当に俺にとって深刻的なものになった。

 あのバイトは本当に辛いものだった……。まず駅前のドラッグストアで初めてのアルバイトを経験したことは徹底的な間違いだった。オープンしたばっかでゴタついているし、なんかドラッグストアなのに100均みたいな便利グッズとか食品とか置いてあるし、ドラッグストアなのになんで酒売ってんだよ。マッチポンプってやつか?

 無駄に体格がいいせいで地下で品出しばっかりやってたり、閉店作業では掃除とかやらされていた俺(他のアルバイトは大体レジやってたのに!)。重いものを運び中腰でいちいち洗剤とかを並べなきゃいけないので腰にかかる負担がめっちゃハードだった。定期的に倉庫でスマホをいじるくらいしか息の抜きどころがなかった……。中途半端に5時間とかいう労働時間を設定したせいで休めないので徹底的にこき使われてた……。

 おい! なんでそこのレジしかやってない女とほとんど肉体労働の俺が同じ時給なんだよ! 高卒差別か? 早くレジ担当になりたかった。レジの奴ら、客いない時突っ立ってるだけじゃん。俺はその間も働いてるんだぞ! せめて手伝えよ! なあ!?

 そう思ってた頃、俺はレジ担当に昇格した。接客業はかなり難しい。そもそもレジの操作が異常に難しい。レジ誤差5000円とか出した日から俺は品出し担当に戻ったし、店長に「それ前にも説明したよな? 何回言ったら覚えるんだよ」と言われ、マジでキレそうになってしまった。俺は初耳だよ! 向いてない、俺は労働には徹底的に向いてない……。

 激しい腰痛がずっと続いていたので、残業をせずに帰ろうとしたら店長に「次から来なくていいよ」と言われた。はあ、そうっすか……。残業のときに社訓を暗唱させられるのは本当にキツかった。なんでアルバイトがこんなドラッグストアの社訓を覚えなアカンのや。逆にクビになってよかった。退職に関してもすったもんだがあったが、なんとか俺はアルバイトを辞めて無職に戻った。

 以来、働こうとしてもどうしてもあのときのトラウマがぶり返してきて一気に労働への意欲がしぼんでしまう。あのまま俺がアルバイトを続けていたらどうなってしまっただろうか? 結局大学には落ちている訳だし、今の高卒無職よりかはマシだっただろうか? それもまたあり得たかもしれない一つの未来だろうか?

 夢の中でやたらとリアルな大学合格への夢を見ることも、その逆に高校を中退している夢を見ることも、あり得たかもしれない一つの未来だろうか? 何一つ分からないまま今を生きている。もう俺はアルバイトをしていないし、大学にも合格出来ないし、高校は無事卒業したし、そして世界は一切終わっていない。

 けれど、俺が生きている今ここで起きているすべての出来事が、偶然とかではなく神の手の中にあるのなら、その時々にできることは宇宙の中で良いことを決意するくらいだろう。