こんにちは。孤独担当大臣に任命された田中アハ太郎です

 孤独担当大臣、爆誕――

 そのニュースを聞いたとき、その任にふさわしく、そして耐えられる人間は日本列島広しといえど、この田中アハ太郎しかいまいと思った。俺ほど孤独を担当している人間もいない。親戚からいない人間扱いされてるし、温かみのある愛に触れたことないし、今も寒くて震えて凍えそうになりながらこのブログを書いているから。もうすぐ春なのに。雪、融けそうなのに(そもそも東京では片手で数えるほどでしか雪は降ってない)。

 しかし、孤独担当大臣って何をする仕事なんでしょうか? やっぱ孤独を担当するだけに愛を知らずに東京の街に一人取り残されることになるのか? 東京は一番孤独が似合う都市だからな。愛を知らずに成長した都市だから。俺もこの歳で本当の愛を知らないし。

 いやいや、田中さんヤバいっすよ、23歳にもなって「本当の愛」はヤバいっす。マジで孤独過ぎて人格的な成長がないってことじゃないですか。大人にならないとヤバいっすよ。みんな働いてますよ。遊んでられる年齢、超えてますよ。そろそろ社会的な責任とか生じてきますよ。今この世界で生きていることの責任とか、果たしましょうよ。

 うるさい!俺は孤独だし孤立なんだ!社会から隔絶された存在なんだ!

 この日本列島広しといえど現時点において孤独にして孤立している存在は俺と総理大臣と天皇しかいないからね。序列で言えば俺が三番目。権力者の孤独を俺は知っているのだ。孤独すぎて、昨日風呂場でちょっと泣いたもんな。風呂掃除してたら母親に怒鳴られたから。

 そうして深夜に風呂から上がって本当に静かな居間の中で一人でテレビを見ていたら、止めどなく涙が……溢れてはこなかった。そうすると死んだはずの祖父がいつの間にか俺の目の前に現れもう死んだはずの元横綱琴櫻の現役時代の相撲の取り口を見ながらこう言うのであった。

「相撲とは最も孤独な競技じゃ。土俵の上には自分と相手の力士しかいない。そして往々にして相撲というのはどれだけ長くても2分以内には決着がつく。時間と空間と関係性がその一瞬に凝縮されてほとんど裸の男同士がぶつかり合う。だからこそ相撲は神事となった。神の横に立つ男、つまり横綱もまた孤独でなければならないのだから……」

 じいちゃん、今相撲関係ねえよ……。

「いやいやアハ太郎、人は誰しも孤独なのだ。土俵に上がる男ならなおさらそうなのだ。だからこそ己を鍛えねばならん。それが人生なのだ。人として生きるということなのだ」

 そんな、じゃあ孤独担当大臣はみんなの心のなかにいるってこと?

「そうだ。本当の孤独はもっと大きなものなのだ」

 大きなものって何さ!

「喪失感じゃ。お前は年を取って落ち着いたのではない。無職になって人間らしい感情が欠落していっているのだ。お前は落ち着いたのではない。人生に主体的に取り組む動機が消えただけなのだ!」

 そ、そんな、じいちゃん、実の孫に厳しくね……? そういうキャラだったっけ?

「再び相撲を見よアハ太郎。力士はもう何かを失っているではないか! 具体的には衣服とか」

 本当だ! 男は何かを失うことで神事に参加する資格を得て、本当の孤独とは何かを知るのか!

「そうじゃ、だから女の話は長いのだ!」

 

 後日、田中アハ太郎は上記の女性蔑視発言が問題視され、孤独担当大臣を辞任した。こうして春が訪れて、大相撲三月場所では白鵬が復活優勝を果たし、日本列島は大いなる孤独に抗うようにアンチ白鵬で団結したのであった。