おい地球! 動いてるのか止まってるのかはっきりしろ!

 この前日記を書いたと思ったらもう五月も下旬だよ、俺はビビったね。この二ヶ月通話を除くと家族と喫茶店の店員以外に喋ってない。しかしよく考えると俺っていつもそんな感じの生活を送っていたはずで、緊急事態宣言の緊急事態って俺の生活のことだったのかな。ひょっとして俺って本土決戦だったりします?

 結局三回しか更新しなかった日記を見たら文体がいつもと違っていて怖くなった。こいつ誰だよ。しかも必ずファラオ・サンダースジョン・コルトレーンについて言及しているし、アルバート・アイラーでも取り憑いていたのか?

 でもかろうじて思い出せる五月の記憶はこの三日間だけで、他の五月の残りの17日ぶんを思い出そうとしても何も思い出せない。モニターの中で宙を舞う古田敦也東京ヤクルトスワローズ優勝の記憶しかない。しかもこれパワプロだもんな。

 あらゆる出来事の遠近感が完全に消失している気がする。ララァが言ってた刻が見えるってこういう状態のことですか? 甲子園の中止決定がまるで昨日のことのように……いや、それは昨日だろ。

 ここで気がついた。野球がないから俺は正確な時間の感覚を失っているんだ。そうか、シーズン中はほぼ毎日プロ野球の試合が開催されているから、その結果を知ることで俺は時間のリズムを作っていたんだ。道理でプロ野球がない冬は精神の調子が悪いし、ヤクルトが負けまくっていた去年と2017年の記憶が薄いわけだ。

 いや、2017年って俺が二浪になってて結構勉強してたし夏場の一ヶ月だけバイトしてた時期じゃん。バリバリ記憶あるよ。何なら高校出てからは一番濃い一年だっただろ。というか2017年の東京ヤクルトスワローズは異次元の負け方をしていたから印象に残るよ。何なら結構勝っていた一昨年の俺の記憶のほうが薄いくらいだ。暗黒時代の横浜以外で96敗もするんだ~って逆に感心したもんな。東京ヤクルトスワローズも緊急事態宣言したほうがいいんじゃないのか? ほら、緊急事態宣言してもここからヤクルトを救うことが出来るのかどうか分からない感じが本家っぽいじゃん。

 ところでさっきも言ったが我が家も緊急事態だ。何よりずっと働いていた両親がまとまった休みを二ヶ月も取っている。母親はなんか幼児退行したみたいな雰囲気をたまに出して無職の一人息子に痴呆の前兆かと思わせてドキッとさせるし、親父は朝から晩まで酒を飲み続け無職の一人息子をドキッとさせる。いやあんた痛風だったよね?

 でもこの狂騒具合がわが心に懐かしく……は響かないな。狂騒は狂騒なので。ひょっとして俺がうるさい音楽が好きなのって家庭環境のせいなんですか? ブオオブオブオビャッと吹きまくるファラオのテナー・サックスは何も答えてくれない。

 とにかくこの緊急事態で俺の周囲の人間の騒がしさは勢いを増し続け、今このブログの文章も普段ギリギリのところで保ち続けていたまとまりとクオリティも空気中のウイルスのように散らばっていって、異常な人々と静かな生活にサラウンデッドバイされながらも偉大なる「普通」を保ち付けていたここ一・二年の俺のささやかな長所も、囲まれる環境が異常な人々と異常な生活に切り替わるととたんに崩れ去っていって、どちからというと本当の緊急事態はそっちの方かもしれないぜ。