五月の朝は意外と寒い

 皆さんもお気付きのように5月に入り大型連休も終わった頃になってくると、午前4時過ぎにはすでに窓の外は青くなっていて、「え、俺の部屋のカーテンが青いだけだよな?」と思ってカーテンを全開にして自分の顔も青くなるわけで、毎年この時期には驚かされることしかない。

 睡眠薬飲んでも眠れないし謎の体調不良にはかかるしで生活リズムが壊滅的になっていた俺はツイッターを見て唐突に将来が不安になり、ワイパックスをゴリゴリと飲んで曖昧になっていたら体調不良が治っていて、よっしゃーと思いながら朝8時ごろに眠りについた。多分見てたけいおん!!とかスペース☆ダンディとかのお陰だと思う。

 そしたら起きた時間でビックリ、もう夕方の4時。空、青いどころか若干オレンジがかって見えたのは俺だけでしょうか? ふっと携帯を見てみたら悪いオタクの知り合いから新宿で飲まないか、という誘いのメール。おごりって書いていたし、家にいても暇だし、風邪治ってたんで、レッツゴー。山手線の中で俺の周りは全部女。痴漢冤罪チャレンジかよ。電車でGO!ならぬ留置所へGO!の危機を乗り越えて、降り立ったワケ。新宿駅の西口に。

 ラインで新宿駅に着いた旨の報告をすると、帰ってきたのは「東口に店を変えた」オイオイオイオイ!!!!!! そりゃないだろ!!!!!!!!!! ただでさえ西口でも迷ってるのにどうやってこっから東口に行くんだよ!!!!!!!!!!!!!

 半泣きになりながら新宿駅をさまようキモいデブオタクの俺。結局ヨドバシカメラの前に立って迎えに来てもらうことにした。悪いオタクから「お前が持ってるスマホはなんのためにあるんだよ」「新宿駅で迷う人間、都民を名乗っちゃだめだろ」「たとえ西口のままでもお前は絶対目的地にたどり着けてない」と散々なことを言われたんですが、悪いのは西口って言ってたのを急遽東口に変えたこいつだよな? あと新宿駅を利用する人間はその駅の特性上田舎者が多いので、純粋培養都民ほど新宿駅には詳しくなく(俺は引きこもりだぞ)、田舎者ほど新宿駅に詳しい現象が起こっている。あと、俺は新宿東口には詳しい。マジで。

 で、どうにかこうにか居酒屋に落ち着いて酒を飲む。久しぶりに会うフォロワーなんかもいたりした。もうそりゃ最初からテンションの高かった俺はただでさえ強くない酒をガバガバ飲んでいくのだ。酔うと記憶がなくなるって言うけどあれ嘘ね。俺の醜態は全部バッチリ俺が覚えているのである。なんか桑田佳祐のものまねとかしてた(似てない)し。「カラオケ行きたいっすね~」とか言って疲れている人間たちをカラオケに付き合わせてしまった。あと俺は酔うとどうも言葉が出てこなくなるときもあるみたいで、母親に電話するとき「朝帰り」と言おうとしても「朝」が分からなくなって、隣りにいたオタクに「夜の次って何?」と聞いたりしていた。今ならはっきり言えるけど夜の次は恐らく地獄です。

 俺はオールナイトだと思っていたカラオケが1時間で終わり、井上陽水の「帰れない二人」を熱唱していたら、マジで電車がなくなって帰れなくなっちゃった。落語みたいな話やね(本当か?)。さてここに厭世詩家というフォロワーがいて、お互い世話になったりしたりしている持ちつ持たれつな関係なわけだが、そいつは大江戸線沿線に住んでいるのだ。大江戸線って新宿通ってるんだね、俺はつい最近まで知らずにいた。

 で、探すわ探すわ大江戸線の駅を。フォロワーと一緒に。歩く歩く夜の新宿。「あ、見つけた!」と思って見てみたらシャッターが閉まったりしていて、俺はその時マジで膝から崩れ落ちそうになったが、またもや歩き続けて、ようやく大江戸線の出口を見つけた。道中いろいろあった……新宿西口駅新宿駅と何が違うんだよそれはもう)とか……新宿3丁目駅とか……。大江戸線に揺られながら思うことは唯一つ。なあ、なんでお前らJR新宿駅とまとまろうとしないの? 協調性見せろよ。同じ電車だろ。

 で、厭世の家がある駅に降り立った俺は、気を利かせてコンビニで差し入れを買ってから家に向かったワケ。ところで書くのを忘れていたが厭世は最近彼女が出来たらしく、一つ屋根の下生活を送りつつあるらしいよ。知らんけど。というわけで今から向かう厭世の家には彼の彼女もいるというのだ。いや、厭世しろよ。

 そういえば、俺には他人の恋路を応援する趣味は特になく、思い返せば常に邪魔をしてきた気がする。「人格王」を自称しながら、やっぱ心の底では他人の恋が終わることを至上の楽しみとしていたのかな……。ならばもう、思い残すことはなにもない! ラブ・クラッシャー田中アハ太郎。尋常に参る! 任せろ、今の俺は酒で気がデカくなっている! 件の彼女氏も俺の知らぬ人間ではない!

 結論から言うと、返り討ちにされた。

 厭世の家に転がり込んできた俺は、そこで件の彼女氏がもうすでに厭世の服に着替えていることを知る。怪しいな、と心のどこかで思いながらでも敵にするには十分よ、ガハハと言いながら酒を飲みまた気をデカく持ち直した。その後ニンテンドー64マリオテニスをプレイした。3人で。このゲーム3人でプレイできるのね……。当然チーム分けは厭世カップル(厭世しろよ)と俺とCOMというもの。これさ、鋼の精神を持つ俺だからいいけどさ、ちびっこ達がやられたら心に大きなトラウマを残し、下手すりゃ友情にヒビが入ると思うよ。任天堂、もっと考えようよ。

 完全にキレた俺は酒で世界が曖昧になってもマリオテニスの腕だけは本物だった。蹂躙という言葉が多分あのときは世界で一番似合ってるに違いないほどカップルをボコボコにしてやった。勝ち誇った顔をしていると、なんか、カップルの絡みが増え、唐突にイチャイチャし始めていた!!!!!!!!!!!!! 俺がマリオテニスでボコボコにすればするほどカップルが仲を深めていく……タモリさん、これって反比例のグラフになりませんか?

 慌ててマリオテニスを中断し、アマゾンプライムでアニメを見ることにした。そして俺はここでも一つ致命的なミスをしてしまった。エウレカセブンを見てしまったのだ!!!!!!!!! しかも死ぬほど感動的な26話モーニング・グローリーを!!!!!!!!!!! ダメじゃん!!!!!!! いつの時代も致命的なミスを犯したと気付いたときにはあらゆることが急速に終わってゆくもので、俺は呆然としながらエウレカレントンが抱き合う姿を見ていた。あと視界の端でイチャつくカップルも。

 その後、厭世に「彼女も眠そうだし、俺も寝るから向こうの部屋行ってろ」と言われ、俺は今日の出来事を必ずブログに書いてやると決心したのだ。書くことが俺のあいつらへの唯一の逆襲になるのです。ミュウツーも多分そんなことを言っていたんだと思う。ほとんど泣きながらブログの文章を考えていたら、窓の外が青くなっている。そう、もう時間は4時を通り過ぎて5時にほど近くなっていた。「帰るか……」多分、あのとき世界で一番敗走という言葉が似合っていたのは俺に違いない。厭世からさよならするついでにせかいにさよならしたい気分にもなっていた。

 身支度を整えて自室で眠っているだろう一応、滞在させてくれた礼儀として厭世に「俺帰るよ~」と言うと意外な言葉が返ってきた。「ダメダメダメダメ」えっ? と思ってもう一回聞くと「え? 部屋に入るよじゃないの? 違う違う帰るの? あ、そう、そうか~」聡明な読者諸君ならここで何かを察しているはずです。

 部屋から出てきたのはパンツ一丁の厭世詩家だった!!!!!!!!!!! いい雰囲気なっちゃってんじゃん!!!!!!!!!!!! 寝てないじゃん!!!!!!!!! 逆じゃん!!!!!!!!!!!!!!!!

 そうか、俺がカップルのいい雰囲気を作り上げてしまったのか……。今度こそマジで膝から崩れ落ちた。すっかり出来上がったカップルが寝る前に布団の上ですることといえばあれしかない。泣きそうになりながら帰途につく俺。もう完全に盛りあがっちゃってるカップル。世界ってこんなに青いんだなあって、あと5月に入っても朝方はまだこんなに寒いんだなあって、世界って驚きで満ちているんだなあって、そう思いながら、俺はまた都営大江戸線に揺られていたのである。