ダンス、革命前夜

 最近、ダンスダンスレボリューションというゲームにハマっている。高校にいたころからちょくちょくやっていたし、浪人生の夏、かなりハマっていたゲームだ。そんなんだから大学受験に失敗するし、よく考えたら現役生の時に受けたセンター試験の帰りでもプレイしていた記憶がある。

 見て分かる通りこのゲームをプレイするにはかなりの勇気が必要で、特に俺みたいなデブキモオタクがプレイするハードルは東京都庁よりも高い。しかも上手いプレイヤーなんかがいたら最悪だ。そういう時は諦めて帰るかありったけの向精神薬を飲んでからプレイしなくてはならない。

 で、帰るのもなんだし向精神薬は朝から飲んでいる俺はあべのハルカスから飛び降りる気持ちでプレイするわけだけど、プレイしている最中あまり他人の目は気にならない。……というのは嘘で、メッチャ気になるが、少なくとも俺に向けられる冷徹な視線を気にするよりもパネルを黙々と踏んでいくほうが楽しい。

 三年前はあんだけハマってたのになぜ一時期このゲームから離れていたのかというと、やっている最中にどんどんプレイの難度が上がってきてしまって俺の体がついていけなくなったからだ。「これ以上ダンスダンスレボリューションを上手くプレイするには体を鍛えるしかない……」と悟ったはいいものの、本来不健康だからこそゲームセンターにきて散財しているのに、なんで体を鍛えて健康になってまでプレイする必要があるのか。これって矛盾じゃないのか? このゲームのクリエイターは逆転裁判をプレイしていないのか? と思って調べてみたら、初出はダンスダンスレボリューションのほうが先だった。KONAMI、ごめんな。

 で、まあ純粋なキモデブオタクである俺は、キモデブオタクであるがゆえに不健康なわけであって、そしてその不摂生生活は現在進行形であった。水は低きに流れるし、デブは楽な方に流される。高校を卒業してほとんど引きこもりに近くなった俺の体は宇宙創造のときのインフレーション的膨張を想起させるほどになっていて、「近い内になんとかしないとな」とは思うものの、問題解決の時に浮かぶ「近い内」というのは永遠に訪れないと広辞苑にも規定されてあるし、俺もその例に漏れず「あ~あ~明日になったら体重が70kgになってて、10代の頃の広末涼子が彼女になってないかな~」と妄想しながら寝ている。そんな俺を見下ろすポスターの中の惣流・アスカ・ラングレーは、「あんたバカァ?」すら言えないほど呆れているようで黙ったままだ。

 そんな、飲み会があるたびにソフトドリンクでコーラを頼み続け、同席者に「アメリカのガキかよ」と言われるほど不健康なデブがどういう風の吹き回しでもう一度ダンスダンスレボリューションをやるようになったのかといえば、親しい友人から「低難度のダンスダンスレボリューションはダイエットに効果的」と教えられたからだ。

 このままだと最終的には自爆寸前のセルみたいになると思った俺はその情報を鵜呑みにして、ついでに向精神薬も飲んでから至急秋葉原のゲームセンターに向かった。しかし前述したようにダンスダンスレボリューションはプレイをする時にはほとんど蛮勇とも言えるような精神状態が必要なので、流石に俺もプレイする前は足踏みした。だが、よく考えてみると俺は無職じゃん。無職のアドバンテージは平日の昼間に自由に行動できること。というわけで俺は平日の昼間、秋葉原のゲームセンターに君臨していたのであった。東京23区東部の王がここに爆誕した。歌舞伎町の女王も跪くしかあるまい。

 しかし、一時間ほどプレイしていると来るわ来るわ、俺より上手く踊れるやつ。汗の塊になって休憩している俺を嘲笑うかのように。あんまりにもタイミングが良すぎるせいで「どこかから俺の滑稽な姿を観察し、程よく俺の精神にダメージを与えられるタイミングで登場したのではないか?」と疑いを持ってしまった。薬を飲んでいるせいでパラノイアの元気がいつもより良い。しかし、俺の疑問が妄想かどうかはメガネの彼しか知らないのだ。メガネの彼、このブログを読んでいたら俺に本当のことを教えてください。

 まあその人のプレイングがあまりにも上手すぎるせいでダンスとは呼べなくなっていたような気がするし。ダンスダンスレボリューションは究極的にはパネルを踏めばいいだけなので、そのための動きはただ純粋に「踏む」という目的に向かって余計なものを削ぎ落としていくのが効率的だ。けどその結果生み出された彼のフォームはとにかく変というか、こういう動きをするメカ、攻殻機動隊にいたよね? 途中から気にしなくなって俺も楽しくプレイした。

 そういうわけで久しぶりのプレイ自体は本当に楽しいものだったし、消費カロリー量は結構大きかったようだ。一時間近く走るよりもこうやって楽しく運動したほうがはるかに精神的に良い。やっぱ持つべきものは友と平日の昼間からゲームセンターに行くことを許してくれる両親という感じがする。おかげで狂っていた生活リズムが調整されて今朝なんか朝の5時に目覚めてしまった。ワシャ百姓か。

 ただダンスダンスレボリューション健康法には2つほど重大な問題がある。一つは俺の体重があまりにもありすぎるせいなのか、必ずプレイが終わると腰に激痛が生じること。もうひとつは、古来から続くカルマ調整的なメカニズムによって、健康を与えられた体が同等の不健康を求めるのか、ゲームセンターの帰りに必ず喫煙所に寄ってコーラを飲みながら一服してしまうことだ。

 この問題を乗り越えた時、改めて俺の健康革命は為されるだろう。とりあえず、踊らないと革命は進まないらしい。